プーログ

ジャーナリストから転身 40代妻子持ちが自由に生きてみた

無職父と姉弟の親子空手【5カ月の猛特訓】他流派と初の手合わせ|驚きの結果に

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こんにちは。

 

プーです。

 

11月のプーログ再開以来、親子空手編をお届けしております。

 

今回は、他流派との組手稽古に挑んだ「息子の実力」にまつわる話題です。

 

5カ月に及ぶ姉弟での激しい稽古は、本当に息子を強くしたのでしょうか。

 

妻に「いい加減しつこい」と言われる親子空手編ですが、トーナメント試合のゆくえに決着がつくまで、どうかもう少しだけお付き合いください。

 

 

ではご覧ください。

 

前回までのあらすじ

父をサンドバッグにした打撃練習やプロトレーナーが開発した珍器具「BMM」での反射神経強化、杭の上でのバランス訓練など、毎晩厳しい稽古に明け暮れるプー姉弟

空手経験のない無職の父指導のもと、メキメキと実力を付け、わずか4カ月で同門の初心者のなかでは無敵を誇る強さに

夏季特別稽古での王者との一戦をへて、さらなる高みを目指すなか、今度は「他流試合」に挑む。

そこで初めて、父は息子の実力を目の当たりにするのであった。

連載の初回はこちら プーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

 

格上ばかりの稽古会

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合同組手稽古会は、空手の経験年数や試合経験の有無などによって、「初心者」「中上級者」に振り分けられた。

 

息子は「初心者」のなかに組み入れられたのだが、それでも周りは格上ばかり。

 

50人近く集まった2年生のなかで、オレンジ色の帯を締めているのは、たった3人だ

 

白帯の子に至っては、1人しかいない。

 

 

もっとも、帯色に示される階級の意味は流派によってまちまちだ。

 

が、ある程度似通った物差しの上にあるのも事実で、たとえばオレンジは「入門したての者」に与えられるカラー、緑は「上級者」、茶帯は「黒帯の一歩手前」といった具合になっている。

 

そんな一定の目安になる帯色から察するに、経験年数が「半年未満」の参加者は完全に少数派だった

 

 

ちなみに、僕が期待していた「拳法との対決」は、低学年・初心者の枠では実現せず、娘の番に持ち越されたのだが、それでも同学年との組手は、そこそこ実力を付けたであろう息子にとって、互いに全力をぶつけ合える貴重な機会だ。

 

経験年数の違いを肌で感じ取り、先ほどからずっと虚ろな目をしているが、昇級審査でみせた圧倒的な強さからして、弱い部類に入るとは思えない。

 

参加者全体での準備運動を終え、経験別・学年別にずらりと並んだ空手キッズが向き合った。

 

地獄の連続組手始まる

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組手の時間は2分。

 

これを30本連続で行う。

 

30本連続といっても、10本ごとに5分ほど休憩を挟むのだが、父に手抜きを固く禁じられた息子にとっては、1セットでもぶっ通しはきつい

 

「地獄ミット」などの厳しい修行がなければ、最初の10本でへばっていたはずだ。

 

また、他流試合のような形式での組手は初の経験となるだけに、精神的な重圧も相当大きいはずだ。

 

緊張にえずく息子の目が、涙目になっている

 

 

そんな息子に僕は心の中で優しく呼びかけた。

 

 

大丈夫だよ。君は誰よりも練習を積んできたのだから」。

 

 

少なくとも、同格の相手に負けることはないだろう――。

 

そんな父の予想は、初戦で裏切られる結果になった

 

相手は同じオレンジ

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初戦の相手はオレンジ帯だ。

 

身体は息子よりも1回り大きいが、息子の肩慣らしにはちょうどいい相手かもしれない。

 

 

開始早々、息子が奇襲の上段蹴りを放った。

 

先ほどまでえずいていた我が子が先に仕掛けるのは、意外だった。

 

 

が、それ以上に驚いたのは、対戦相手の反応スピードだ

 

奇襲の上段蹴りをあっさりかわしてしまった

 

それもバックステップではなく、上体を後ろにそらせての「最小限の動き」でだ

 

そのまま、お手本のような下段蹴りを叩きこむ。

 

脛で打つ、とてもきれいなフォームだ。

 

 

え!?嘘…」

 

僕は驚愕した。

ザ・カラテ

実は息子の空手は、キックボクシングの動きに近く「動いて当てて、喰らわずに打つ」スタイルだ。

 

対する相手は、ストロングスタイルの「ザ・カラテ」といったところ。

 

「ザ・カラテ」は小学校低学年に似つかわしくない「どっしり」とした構えから、3発分の攻撃を1回ですべてチャラにするような、重い攻撃を浴びせるスタイルだ。

 

重さはあっても鈍さはなく、素早い動きにもきちんと対応できていた。

 

「同じ場所にいると危険」という父の教えを守り、前後左右へと動き続ける我が子に対し、「ザ・カラテ」は無駄に追わず、その場で向きを変えて対処している。

 

 

技にも切れがあり、そこには幾星霜を重ねた反復練習の跡があった。

 

とくに敵の死角に入り、相手の振り向きざまを狙って放つ下段蹴りは見事だ。

 

息子は身体を「くの字」にして、後方に退いていた。

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この男の子、とてつもなく強い。

 

腰に巻くオレンジ帯が偽物か、さもなくば「本物の空手家のご子息」に違いない。

 

 

とはいえ息子よ。

 

いま悶絶させられるその技は、君も練習してきた技ではないか…

 

息子の実力

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出鼻をくじかれる形となった息子だが、彼は決して弱いわけではなかった。

 

ザ・カラテに一矢報いることはできなかったものの、黄や黄緑などの上帯を圧倒する場面や、新奥義「霞楔」(かすみくさび=ハイキック版猫だまし)をクリーンヒットさせる一幕、相手次第で手加減する配慮などもみせた。

 

途中、中上級組から流れてきた子にも「真っ向勝負」を挑み、押しも押されぬ激しい打ちあいを演じた。

 

息子は組手を1セット終えるごとに口数が減り、最後は髪の毛が汗でずぶ濡れになっていたが、何とか最後までやり通した。

 

 

ただ、いまのままではトーナメントでの優勝の目は薄い。

 

空手の頂(いただき)を目指す子の稽古の凄まじさは、「地獄ミット」どころではないのかもしれない。

 

 

とはいえ、これ以上修行で子どもに負荷をかけるのは、2人が望まぬ限り、非効率かつ非合理的かつ非人道的だ。

 

もちろん、非効率と非合理の先にしかないものがあるのも事実だ。

 

が、むしろ、教える側の僕自身に努力の余地があるに違いない。

 

たとえば「小学のフルコンタクト空手の試合研究」と「稽古へのフィードバック」などが想定される。

 

 

実はこの判断が後の試合で裏目に出てしまうのだが、当時はそんな「大きな落とし穴」があるのを知る由もなかった。

 

 

次回に続く。

無計画な退職から4年あまり|40代無職の父もうれしい「子供の冬休み」

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クリスマスイブのきょう、子供たちが冬休みに入った。

 

引きこもり生活を続ける父としても、家族と過ごす時間が増えるのは、とてもうれしい。

 

お金がないので遊び方は限られるが、できるなら朝も昼も夜も、目いっぱい子どもと過ごしたいと思う。

 

とはいえ、自分のいまの立場に不安がないわけでもない。

 

会社を辞めてすでに4年たったが、いまだに僕の心には「解放感」と「先々への恐怖」が共存したままだ。

 

この相対する2つの気持ちを失った時点で、僕は本格的に駄目になっていくのかもしれない

 

 

プー姉弟:「たっだいま~!

 

 

2学期の終業式を終えた姉弟が意気揚々と帰ってきた。

 

とにかく、まずは昼ご飯だ。

 

粗末な昼食にも

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きょうの献立は、チーズをたっぷり乗せたチキンラーメンと、「マルシンハンバーグ」でつくった父特製バーガーだ。

 

健康面では「最低の食事」かもしれないが、親子で食べる手製のジャンクフードは最高に旨い。

 

最近ごますりを覚えた子どもたちも「お父さんは料理の天才」と喜んでくれている。

 

 

一人100円以下の粗末な昼食でさえ、僕にとってはかけがえのないひとときだ。

 

会社の忘年会などよりも、はるかに有意義な時間になる。

 

お酒の飲めない僕にとって、「夜の席」は苦痛でしかなかった。

 

時間の無駄遣いは、すなわち人生の無駄遣いだ。

 

嫌いな上司に向けた作り笑顔も、いまはもうはるか遠い遠い昔の思い出だ。

飾りつけはディナーの後で

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マルシンハンバーグ」にいつまで満足してくれるのかはわからない。

 

子どもと過ごす「旬の時間」はそう長くない。

 

娘はいま5年生で、来年6年生になる。

 

そんな切ない気持ちを払拭すべく、最近僕は子どもとのコミュニケーションに少し前のめりになっている。

 

 

父:「ご飯を食べた後は、お父さんとクリスマスツリーの飾りつけをしよう」

 

プー姉弟:「はーい」

 

 

頂点の星をどちらが置くかで喧嘩する姉弟に、安心する自分がいる。

 

キラキラした球体をバランスよく飾りつけ、リボンを結び、一本の鎖でつながれたゴールドのベルとシャラシャラモコモコしたものを巻き付け、雪に見立てた綿を散らしたところで、いよいよ点灯式だ

 

父:「さあ、つけるぞ」

 

 

ピンポーン

 

 

ドアのベルが鳴る。

 

嫌な予感がした。

 

ドアスコープをのぞき込むと、家の門柱をよじ登っている小学生の姿がみえた。

 

いつも間の悪いときに訪ねてくる、息子の悪友だ。

 

 

息子:「友達がきた!遊んでくる!」

 

父:「え、はぁい、いってらっしゃい」

 

娘:「あ、私も1時から友達と約束あるからもう行くね」

 

父:「え、そうなの?じゃあ、早くしないと…」

 

 

自由な立場をとことん楽しもうにも、忙しいまわりがついてこないものだ

 

寒いからジャンバーを着ていくんだぞ」などと大人の態度で見送る僕だったが、

去り行く子どもの姿に、一人社会から取り残されたような侘しさを感じるのであった。

 

※親子空手の連載は今回お休みしました。

 

他流試合|異種格闘技戦に挑む≪無職父と小学生空手姉弟≫合同組手稽古会へ

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こんにちは。

 

プーです。

 

親子空手シリーズの新章も、小4王者との対戦をへて、いよいよ佳境に近づいてきました。

 

今回は、プー姉弟にとって初の他流試合となる「合同組手稽古会」に参加したときの話です。

 

稽古会には、同じ打撃系の格闘技として「拳法」も参戦しており、一つの見どころになりました。

 

スポ根マンガのような激しさに、ベスト・キッドのようなロマンを取り入れた稽古は、2人を強くしたのでしょうか。

 

では、ご覧ください。

前回までのあらすじ

父をサンドバッグにした打撃練習やプロトレーナーが開発した珍器具「BMM」での反射神経強化、杭の上に立って技を繰り出すバランス訓練など、毎晩厳しい稽古に明け暮れるプー姉弟

空手経験のない無職の父指導のもと、メキメキと実力を付け、わずか4カ月で同門の初心者のなかでは無敵を誇る強さに

夏季特別稽古での王者との一戦では、変則型の上段蹴りを決める一幕も。

プー姉弟はさらに修行を積むべく、今度は「他流試合」に挑むのであった。

連載の初回はこちら プーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

 

さらなる経験と自信を求めて

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試合まであと1か月に迫ったころ――。

 

「夏季特別稽古」で強豪相手の組手を経験したプー姉弟だが、優勝を目指す上でもうひとつ、ぶち破らねばならない壁があった。

 

それは「メンタルの問題」だ。

 

スポーツの世界では、緊張のあまり、実力の半分も出せずに試合で敗退する選手も少なくない。

 

とくに空手は一人で戦場に立たねばならない、孤高の格闘技だ。

 

試合の緊張もひとしおだろう。

 

 

何より娘は、昇級審査であがってしまい「昭和の巨大ロボット」のような動きになった前科がある。

www.pooh.style

 

トーナメント試合という大舞台での緊張感は、昇級審査とは比べ物にならないほどい大きいはずだ。

 

 

「試合慣れ」は物理的に不可能だとしても、せめて何か「自信のつく経験」だけはさせてあげたい。

 

実際、初めての経験・挑戦によって、子どもの心が一回り大きくなるのを僕は何度もみてきた。

 

  • 乗れた!見てお父さん」(補助輪なしの自転車に乗った日)
  • お豆腐ください」(はじめてのおつかい)
  • じいじ、ばあば、きたよ」(ひとりで祖父母の家にいったとき)
  • もう怖くない!もう1回乗る」(初のジェットコースター)
  • 「カッコカッココッカッ」(生活発表会でウッドブロックのソロ演奏)

 

「尾行」「先回り」などで保険をかけながら、可愛い盛りの我が子を千尋の谷へと突き落としたあの日を思い出すと、いまも目頭が熱くなる…。

 

 

とにかくいまは「絶対にやれる!」というような、試合への自信を与えたい――。

 

そんな切なる父の祈りを受け止めてくれたのが、道場からLINEで送られてきた「合同組手稽古会のお知らせ」だった。

 

合同組手稽古会

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こういうのを商売上手というのだろうか。

 

「合同組手稽古会」は、いまのプー姉弟のために用意されたような、なんとも魅力的なオファーだった。

 

稽古内容は文字通り、1時間ぶっ通しで組手だけを行うシンプルな内容だ。

 

前半は低学年、後半は高学年の2部構成になっている。

 

組手は、さらに「初級」と「中上級」に分かれ、最後に「学年別」にまとめられる。

 

 

つまり、力量の近い同学年を相手に組手稽古ができるわけだ。

 

参加費も1000円と、無職の父に優しい設定になっている

 

 

先の夏季特別稽古(⇒詳しくはこちらの記事参照)に似ているが、合同組手稽古会は、組手だけに特化した稽古であり、また、他流派が集う点でも貴重な経験ができるはずだ。

 

最年少という理由から、夏季特別稽古でことごとく手加減されたプー弟にとっては、自分の力量を見極める絶好のチャンスになる。

熱気に包まれる会場

f:id:ueaki:20211222164925j:plain前半は低学年の部。

 

まずは息子の番だ。

 

100人近い参加があったのだが、なぜか2年生の数が突出して多い。

 

「初心」「中上級者」ともに、半数は2年生が占めている。

 

 

入念にアップする姿やその表情から、参加者の真剣な気持ちがみえてくる。

 

なかには「試合」に備えるがごとく、父の構えるミットに激しい連打を繰り出す女子もいた。

 

ハイハイ、ハイッ、ウィ~

 

小3ぐらいだろうか。

 

独特の掛け声をもって、周りの景色が見えないほど没頭する父と子の姿には、自分に似た空気感というよりも、空手にかける「桁外れな熱量」を感じた。

 

 

とにかく皆、強そうに見えるのだが、注目株は「拳法」の看板を背負って組手に臨む子だ。

 

空手映画の金字塔を打ち立てた「ベスト・キッド」に出てくるコブラ会のような、袖のない道着を着ていてる。

 

 

早速、これに息子が反応した。

 

燃えるどころか、不安に身を固くしたようすで「お父さん、大丈夫かな」と弱気なことを言い出す。

 

 

この5カ月で明らかに強くなった息子だが、実はクラスのガキ大将的存在の子にいまだ逆らえずにいる小心者だ

 

「大丈夫。強くなってるから」と言い聞かせたところで、息子は震える小鳥のように縮こまったままだ。

 

励ましの効果は薄い。

 

父に似たのだろう。

 

 

かくして、「地獄ミット」よりもきつい合同組手稽古が始まった。

 

次回に続く。

 

無職父と小学生姉弟【親子空手】奇襲の「奥義」で下剋上!王者相手にまさかの展開⁉

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こんにちは。

 

プーです。

 

プーログ再開以降、親子空手の話題をお届けしております。

 

今回は、娘と王者の初対決のもようをまとめました。

 

ずっと「強い相手」を探し求めてきた娘ですが、彼女の空手は全国を制したチャンピオンに通用するのでしょうか。

 

ではご覧ください。

 

前回までのあらすじ

父をサンドバッグにした打撃練習やスポーツトレーナーが開発した珍器具「BMM」での反射神経強化、杭の上に立って技を繰り出すバランス訓練など、毎晩厳しい稽古に明け暮れるプー姉弟

空手経験のない無職の父指導のもと、メキメキと実力を付け、わずか4カ月で同門の初心者のなかでは無敵を誇る強さに

そしてついに娘は、王者との力試しの日を迎えた。

マンガのような修行に明け暮れた娘の実力やいかに。

連載の初回はこちら プーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

姉の実力

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選手クラスが集う夏季特別稽古のなかに交じって、本格的な組手に挑戦する愛娘。

 

「エンジョイクラス」からきた末席とはいえ、日々の厳しい稽古は伊達ではない

 

格上を相手に、娘は互角以上の戦いをみせている。

 

とくに地獄ミットで鍛えた蹴りは、選手クラスの相手にも通用することがわかった。⇒地獄ミットの詳細をまとめた回はこちら。

 

試合運びの巧みさやスピード感などは見劣りするものの、重い蹴りを警戒し、間合いを詰められずにいる子もいた。

 

そして、(2分×16本でワンセットとなる)組手稽古の開始から半時間――。

 

ワンセット目の組手は最後の一本となり、娘の向こう側についに小4の王者が立った。

 

互いの思惑

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全国を制した経験もある小4の王者からみれば、娘は「エンジョイクラス」からきた格下の相手に過ぎない。

 

ひとつ年上とはいえ、帯の色はオレンジ帯で、試合経験すらない相手だ。

 

空手の世界では5年以上も下の後輩になる。

 

当然、練習相手になってもらうのではなく「少し手加減し、練習相手になってあげる」と考えるのが、ごく自然だろう。

 

 

ひるがえって娘からすれば、小4茶帯女子との組手は特別な重い意味を持つ

 

3つ下の弟との組手は手加減せねばならず、最近、ずっと強い相手を求めていたのだ。

 

いま向き合うのは一切手加減しなくていい相手であり、全力を出すことができる。

 

 

つまり、茶帯王者からすれば練習のひとつに過ぎない組手でも、娘にとっては自分の力を試すまたとないチャンスだったのだ

 

強襲

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親子といのは不思議なものだ。

 

僕は娘が何を考えているのか、その立ち姿をみただけでわかった。

 

興奮に鳥肌が立った。

 

娘は練習の成果を「最初の一撃」に込めるつもりだ

 

 

王者も「初心者の上段蹴りほどノロマなものはない」などと高をくくっているに違いない。

 

とくに油断している相手への「変則型」となれば、たとえチャンピオンであれ、奇襲が成功する公算はさらに大きいはずだ。

 

 

娘はステップワークではなく「歩行に近いモーション」で間合いを詰め、時計と反対まわりに腰をひねる。

 

もはや間違いない。

 

王者が胸元にガードを固めてステップインしてきたところで、呼吸を爆発させ、腰から背中にかけて溜めた力を一気に解放した

 

「シッ!」

 

刹那(せつな)、真下からほぼ直線軌道で跳ね上がった右足が、王者の顔面に迫った。

 

「バチン!」

 

娘が放った奇襲の「逆雷」(さかいかづち)が、チャンピオンの左頬を捉えた。

 

え?

 

王者はバックステップでいったん距離を置き、いま自分の身に起きたことを整理し、苦笑いした。

 

現実の壁

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マンガのような展開は「最初の奇襲」までだった。

 

茶帯女子の強さはやはり「別格」で、壁の分厚さを思い知らされた。

 

娘の蹴りはミートする手前でことごとく押さえられ、逆に王者は斜め45度から強烈なストマックブローを突き立ててくる。

 

段々、腕でガードするのが精一杯になり、腰が引けていく娘。

 

とくに「初見の技」は、反応すらできずにいる。

 

通常の回し蹴りとは逆の方向から顔の側面に蹴りを浴びせる「内回し蹴り」や、間合いの外から伸びる「上段前蹴り」などをもらうたびに、ヘッドガードが大きくずれた。

 

何とか反撃に出ようと食らいつく娘の攻撃は「ツーテンポ」ほど遅れていて、空を切るばかりだ。

 

 

結果して、娘は年下のチャンピオンに圧倒され続けた

 

娘の感想

見せ場といえたのは、最初に当てた変則型の上段蹴りと、途中、突きに合わせて打ったカウンターの左フックぐらいのものだ。

 

 

そんな防戦一方の展開に、ひょっとして、娘は落ち込んでいるのではないだろうか。

 

帰り際、娘に感想を聞いてみた。

 

 

父:「ねえ、茶帯の子と戦ってどうだった。あの子、有名なチャンピオンでしょ?」

 

娘:「滅茶苦茶強かった。でも『強いね』って言ってもらえたぁ~

 

娘は年下の強敵に負けた悔しさは微塵も感じておらず、むしろ褒められたことがうれしかったようだ。

 

師範を乗せたメルセデスが視界を過ぎていく。

 

僕は親バカを爆発させ、少し嫌がる娘を抱きしめた。

 

連載の初回はこちらプーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

 

無職父と小学生姉弟【親子空手】年下の王者と激突|修行4カ月目で

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こんにちは。

 

プーです。

 

早いもので、連載を再開してから1カ月ほど経ちました。

 

以降、親子空手の話題をお届けしていますが、今回は娘が初めて「強敵」と戦った時の話をまとめました。

 

相手は年下ですが、全国大会でチャンピオンになった経験のある女の子です。

 

毎日激しい稽古を積む娘と王者との一戦は、胸が高鳴りました。

 

技とスピードで娘を凌駕する王者の圧勝か、体格差と勢いで勝る娘にも勝機はあるのか――。

 

その模様をご覧ください。

 

※もし初めてお読みになる方は、よろしければ最初から読んでみてください。

全部で12~13本程度です。

 

連載の初回はこちらプーログ2年ぶり再開|親子で空手に半年没頭|試合の結末は? - プーログ

 

同年代の強者求めて

無職の父指導の下、4カ月ほど「スポ根漫画」のような特訓を重ね、メキメキと強くなったプー姉弟

 

娘の蹴りは父の腰痛を悪化させるほど威力を増し、息子も昇級審査で異様な強さをみせた。

 

ただ2人とも、同学年の強い相手と本気で戦ったことがない。

 

親子空手は組手の相手が姉弟に限られるからだ。

 

週に一度通う道場の「エンジョイクラス」にも、強い相手はいない。

 

 

トーナメント出場まであと2か月足らず――。

 

焦るプーファミリーのもとに、(選手としての)姉弟の実力を知るチャンスが巡ってきた。

 

それこそが「お代官様への直訴」のごとく父が師範にお願いした、夏季特別稽古である。

 

邪魔な先客

新型ウィルス防止の関係で、保護者による特別稽古の見学は許されなかった。

 

そこで僕は、稽古の様子を外からこっそり覗き見ようとしたのだが、練習の模様をビデオ録画する先客があった。

 

この場所は誰にも譲らない」といわんばかりに、この御仁、ハンディーカムを構えたまま僕と目をあわさずにいる。

 

車線減少の合流地点で、割り込みを許さない人と同じ「いやらしい目」だ

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仕方がないので、僕はこの男性の背中に隠れるようにして、稽古を盗み見ることにした。

 

つわもの揃い

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夏季特別稽古に集まった少年(少女)部のメンバーは、試合経験のある子ばかりだ。

 

青や黄色の帯を締める強者(つわもの)が集うなか、オレンジ帯を締めるプー姉弟は、「エンジョイクラス代表」として末席に加えてもらった格好だ。

 

稽古のレベルもエンジョイクラスのそれとは違い、いつもなら20回をノルマとする腹筋も、特別稽古では「1分間」という単位に変えて、競争心をあおっていた。

 

ほかにも、ミット打ちや受けの練習などもあったが、私語はもちろん、笑顔もない。

 

総当たりの組手

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告知通り、特別稽古では組手に多くの時間を割いた。

 

対戦が終わるごとに一人ずつ横にスライドし、相手を変えていく「総当たり」の形式で行われた。

 

そのため、体格差や年齢差などは考慮されず、向き合った相手と機械的に戦う形になっていた。

 

メンバーの中で最年少となる息子は、ほとんどの相手が手加減をしてくれた

 

 

まあ、当然と言えば当然だ。

 

どんなスポーツであれ、小学生にとって「学年の差」は大きなハンデになる。

 

とくに空手の場合、学年が1年違うだけで打撃の重さは著しく変わり、この差を埋めるには「相応の実力差」が必要になる。

 

大抵の場合、2学年以上離れているとまともな勝負にならない。

 

そんななかで異彩を放っていたのが、くだんの茶帯の少女だった

 

小4のチャンピオン

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全国大会での優勝経験もある「道場のエース」で、身体は娘より一回り小さく、年は1つ下の小学4年生。

 

体重差のある年上であろうが、男子だろうが、相手を一切寄せ付けない強さを見せていた。

 

強さというより、上手さといった方が正確かもしれない

 

まわりの子と比べ、スピード感もギア2段分ほど違う

 

後退のスイッチを切ったような「姿勢」にも秘密があるようで、この日彼女が劣勢に立たされることは一度もなかった。

 

 

娘はこの子とどんな戦い方をするのだろう

 

 

全国大会優勝経験のある茶帯女子と、毎夜稽古に励む初心で年上の娘――。

 

そんな両極に立つ女の子同士の組手が、特別稽古のメーンイベントになった。

 

次回に続く。

 

親子空手に壁【無職父と小学生姉弟】急成長の娘「もっと強い人と戦いたい」

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こんにちは。

 

プーです。

 

プーログは2日に1度の頻度で更新していくつもりですが、少し遅れてしまいました。

 

申し訳ありません。

 

ただ、親子空手をめぐってこの週末に面白いことがありました。

 

いずれまたご紹介したと思いますので、楽しみにして頂けると幸甚です。

 

 

さて今回の話題ですが、親子空手が抱える宿命的な問題と解決に至ったときの話をまとめました。

 

プー姉弟は、研鑽(けんさん)を積んだ空手の「力試し」を望みますが、道場の外では難しい要求です。

 

姉弟の切なる声は、一体どうなってしまうのでしょうか。

 

では、ご覧ください。

 

力試しを求める姉弟

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「こんなのをまともに喰らったら、大人でも効かされるよ…」。

 

スポーツインストラクター(兼発明家)の友人は、娘がミットに放った中段蹴りの衝撃に目を丸くした。

 

空手をはじめて4カ月、道場の「エンジョイクラス」でプー姉弟は向かうところ敵なしだ。

 

ただ、姉弟の掲げる目標はエンジョイクラスの制覇ではない

 

トーナメントの優勝だ。

 

「一度強い人と本気で戦ってみたい」と娘はつぶやいた。

親子空手の問題点

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夜な夜な激しい稽古を積み、着実に実力を付けるプー姉弟だったが、修行当初から「親子師弟空手」には大きな問題があった。

 

父指導の下での稽古では、組手の相手がそれぞれ姉・弟に限られてしまうということだ。

 

父にフルコンタクト空手の経験がない」という根本的な欠陥はさておき、実戦の中で技を磨かない限り、トーナメントで勝ち上がるのは難しい。

 

すでに2人は強いのか、あるいはまだ弱いのか。

 

そして優勝するにはどの程度稽古を積めばいいのか――。

 

この時点ではまだ、選手としての姉弟の実力は未知数で、試合に勝つための道のりも不透明だった。

 

夏季特別稽古

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昇級審査以降、この「組手問題」を解消する術(すべ)を見いだせずにいたプーファミリーだったが、夏休みを迎えるころ、そんなモヤモヤをかき消す福音が届いた。

 

夏季特別強化稽古をおこないます

 

道場から保護者に向けて一斉送信されたLINEのメッセージだ。

 

大まかにまとめると、こんな内容だ。

  •  組手中心の稽古
  •  少年(少女)部の試合出場者限定
  •  実施回数4回
  • 定員30人
  • 先着順

父:Σ(゚Д゚)

娘:( ゚Д゚)!

息子:(;゚Д゚)

 

娘:「強い人と戦ってみたい!」

父:「試合勘を養うのにも役に立つ!」

息子:「いっぱい組手ができる!」

 

舞い込んだチャンスに、プーファミリーは目を輝かせた。

 

「月謝のグレード」で露骨な差

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父:「30人限定だから早く申し込もう!」

 

早速、参加希望の旨を送り返したのだが、案内文にひとつ「ひっかかる文言」があった。

 

試合出場者限定のくだりだ。

 

試合出場者というのは暗に、週1会員以外を指しているのではないか。

 

明記こそしていないが、これまでの流れからいくと参加資格は「シルバー会員以上」としている公算が大きい。

 

道場の窓口に直接電話で確認してみたところ、案の定、「週1会員は想定していない」という回答だった

 

窓口の人は「一応、師範に聞いておく」と含みを持たせるも、声のトーンが「社交辞令」と伝えている。

 

負け犬の遠吠え

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月謝のグレード」に応じてサービス内容に差が出るのは仕方がない。

 

子どもの習い事にお金がかかるとは聞いていたが、なるほど、勉強になった。

 

自分のふがいなさを棚上げし、「貧乏人をいじめるな」と叫んだところで、益々惨めになるだけだ

 

 

とにかく、へこんでいるばかりでは幸運は訪れない。

 

うろ覚えだが、pvに小橋建太も出演する「涙のフォーチュンクッキー」も確かそんなことを言っていた。

 

さいわい、今日は子どもたちが道場に行く日だ。

 

もう師範に直談判(じかだんぱん)するしかない

 

ミッション

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特別稽古参加への直訴(じきそ)は、子どもたちに任せることにした。

 

親がしゃしゃり出るより、子どもから直接伝えた方が「試合への情熱」を汲んでもらいやすいと考えたからだ。

 

ただ、恐ろしいほど頼りなく、考えられぬほど当てにならない子供に丸投げするのは心もとない。

 

念のため、子どもたちのお迎えを兼ねて僕も道場に足を運ぶことにした。

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道場の外で待つこと15分――。

 

師範代:「本日の稽古はこれまで!一同、師範に礼!」

門下生:「ありがとうございました!」

 

稽古を締める大きな声がミッション開始の号砲だ。

 

果たして我が子は、与えられた指令をきちんと遂行できるか。

大誤算

練習直後を狙う作戦には、大きな誤算があった。

 

僕はどうしてそんな大切なことを忘れていたのか。

 

我が子は、物事に優先順位をつけるスキルを持ち合わせていなかったのだ。

 

とくに弟は、親に内緒で溜めた宿題を持て余し、「学校のゴミ箱」に全部捨ててしまうような悪童だ

 

お母さんにこっぴどく叱られ、泣きながら「二度としない」と誓ったものの、宿題を後回しにする癖はまったく治っていない。

 

 

かくしてプー姉弟は、師範代に「練習参加スタンプ」を押してもらおうと、2人仲良く「黄色い台紙」をもって、悠然と長蛇の列に並んでいたのだった

 

マスク越しに「そんなのあとにしろ!」と叫んではみたものの、興奮したちびっ子たちの奇声にかき消され、僕の声は2人に届かない。

 

モタモタしているうちに、肝心の師範は裏口から出て行ってしまった

 

メルセデス再び

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参加人数に枠を設けている以上、今日のタイミングを逃せば承諾の芽はない。

 

焦った僕は、裏口の駐車場に向かって全力で走った。

 

師範を乗せたメルセデスはいまにも発車しようというところだ。

 

僕は車に駆け寄り、コメツキバッタのように何度も頭を下げた。

 

すると、後部座席の窓が開き、師範が顔をのぞかせた。

 

 

師範:「どうかされましたか?」

 

父:「道場でお世話になっているプー姉弟の父です。突然の不躾をどうかお許しください。特別稽古のことでお願いがございます

 

 

本当に、お代官様に直訴しているようだ

 

 

師範:「ああ、話は(事務局から)聞いていますよ。強化稽古の件ですね。二人とも参加させるよう、私の方から指示しておきました」

 

遠ざかるメルセデス

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師範の言葉は本当だった。

 

メルセデスを見送る僕のもとに、「夏季特別強化稽古の案内」をぴらぴらとはためかせながら、子どもたちが駆け寄ってきた。

 

 

後に分かったことだが、特別稽古の参加者は「32人」いたという。

 

「2人ともよく頑張っている」という理由から、師範が特別に枠を設けてくれたそうだ。

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この日の師範の計らいは、人事スクープを入手したときぐらいうれしかった。

 

「頭を下げたままで車のお見送りの技」を4年ぶりに出すくらい、ありがたかった。

 

小学生と無職父の「親子空手」謎の老人現る!達人か?震撼の昔話も

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こんにちは。

 

プーです。

 

プーログ再開以来、親子空手の話題をお届けしておりますが、今回は少し脱線し、プー姉弟の厳しい稽古を見物する「ギャラリー」の方々にスポットを当てました。

 

話の本流とはあまり関係ありませんが、ギャラリーの中に一人、インパクトが強烈な方がいたため、「いつか書きたい」と思っていました。

 

人物の特定を防ぐため、事実関係を少しぼかしている部分もありますが、そのあたりは笑って許して頂ければ幸いです。

 

では、どうぞ。

 

猛稽古にギャラリーも

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人づてに聞いた話では「〇〇公園に夜な夜な空手親子が出没する」と僕らの稽古が近所でも話題になっているそうだ。

 

実際、トーナメント制覇に向けた2か月間の練習量は、昇級審査のそれとは比較にならない。

 

手作りの水袋もAmazonで購入した安物のミットも、激しい蹴り込み練習の末に千切れ飛んだ。

 

柔らかい素材で組手に適した100円ショップのサンダルは、軸足の回転時に底が擦り切れ、すでに3足目になる。

 

使い込んだ防具は大量の汗を吸って黒ずみが落ちず、「ペットショップの匂いがしている」(息子談)くらいだ。

 

 

そんな激しい稽古とあって、時折家路に急ぐ通行人が足を止め、修行のようすを見物していくことがある。

 

基本的に皆、マナーの良い人ばかりだが、なかには辟易させられるようなギャラリーもいる。

 

 

とくに、おげれつな話題で大騒ぎする不良少年には困ったものだ。

 

(マンガのような)空手の稽古に興味を持ってもらうのはいいが、すくなくとも、子どもの前での「下品な会話」は慎んでもらいたい

 

小さな子どもにおかしな質問をぶつけられたところで、父としては説明に困るばかりで、対処のすべは「何も知らぬふりを決め込む」以外にないのである。

 

 

また動画撮影されたり、SNSに投稿されたりすることもあるようだが、時代が時代だけに、そちらはあまり気にしないようにしている。

 

 

そんな感じで、子どもと空手の練習をしていると色々なタイプのギャラリーが現れるのだが、道着姿の不気味な親子に接触するような人はあまりいない

 

ところが過去に一人だけ、プー一家のそばまで近づき、接触を図ってきた奇特な人がいた。

 

空手の達人然とした「謎の老人」である

 

その正体はいまも神秘のベールに包まれたままだ。

老人の覇気

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知らない人に、突然すぐそばでじっとみつめられると、得体の知れない恐怖を感じるものだ。

 

煙草の煙をくゆらせるくだんの老人は、街灯を背に、神秘的なシルエットを浮かび上がせていた

 

ひょっとすると、これは幾度も死線を超えた者だけが放つ覇気の一種かもしれない。

 

そんな、そこはかとない恐ろしさだ。

 

子供の前でタバコを吸うのはやめて欲しい」という父としての繊細な気持ちも働いたのだが、この暗黒街の住人にそんな世間の常識は通用しない。

 

謎の老人は「姉弟組手」が終わるまでじっと待ち、口を開いた。

 

 

君も空手家か?

 

 

男の銀河

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老人が話しかけた相手は、子どもでなく僕の方だった。

 

以前書いた通り、僕には空手の経験がない。(⇒詳細は連載第一回目

 

だがあろうことか、「ポジショニングが甘い」だの「そうだ、そのフックだ」だの、熱を帯びた僕の指導がこの「本物の男」にすべて見られてしまっている。

 

子どもの手前もあり、いまさら「違う」とはいえない。

 

 

父:「…はい、一応」

老人:「そうだと思った

 

 

齢(よわい)70といったところか、どこか憂いのある老人は目を細め、軽くうなづいてみせた。

 

 

老人:「そうだと思った

 

 

なぜか老人は、同じ言葉を2度繰り返した。

 

どことなく自分と同じ匂いがするのは、気のせいだろうか。

 

とにかく僕は、着ている道着が柔道着だとばれないか、気が気ではなかったのだが、そんな不安をよそに謎の老人は自身の過去を語り出した。

麗しのバナナ御殿

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老人の口から発せられる自身のエピソードは、我が耳を疑うほどインパクトが強く、驚きを禁じ得ない内容ばかりだった。

 

空手に明け暮れた若かりし時代の逸話、返還前の沖縄で複数の米兵を打ち負かした武勇伝、そして、銃を持つヤクザを相手に戦った暗黒時代の秘話…。

 

空手の話題はともかく、「バナナの貿易で屋敷を建てた」という話から雲行きが怪しくなり、その大部分が法螺話(ほらばなし)だと気づくまでに、そう時間はかからなかった。

 

「ヤクザに撃たれた銃創」だと説明する腕の傷は、どうみてもただの火傷だ

 

「それ火傷ですよね?」と問いただしても、「いや、銃で撃たれた傷だ」と譲らない。

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そもそも、柔道着と空手着の見分けがつかない時点で怪しいものだ。

 

息子だけが「いっぱい血が出たの?」と老人の法螺話を真に受けるのであった。

 

 

※次回は、「親子空手の壁」をテーマにお届けします。

 

本ブログの「親子空手編」を始めてお読みになられた方は、よろしければ連載1回目からお読みください。第一回はこちら

 

記事10本分ほどです。

 

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。