【プレジデント】になった丘サーファー
「売り手市場が存在する」というちょっとした安心感とともに、厳しい世の中への軽い失意を抱く僕。
ハローワークからの帰り道、無職の友人から僕のスマホにLINEのメッセージが入った。
友人:「飯でもどう?」
僕 :「了解しました。どこで会う?」
彼は、僕の自宅とは真逆にある繁華街にいるらしく、どこか適当な居酒屋で会いたいというのだ。
「了解。これから向かいます」
彼は妻子を持たないアラフォーで、僕よりも身軽な立場。
職を転々とするうちに齢40を超えてしまった今も、頑なに「丘サーファー」を続けている。
早朝海に出かけるのに、遠方からわざわざ車で迎えに来てくれるような、人のいい奴だ。
大飯喰らいで体格がよく、昔、ココ壱番屋に「食べられれば無料」という超特大カレーが存在したのだが、彼はとんかつを上乗せして完食してみせたこともあった。
少しイタイ自慢話が大好きで、とても男らしく、お酒も強い。
飲めない僕は、極端に薄いハイボールをちびちび口に含ませながら、そんな彼の近況に耳を傾けた。
無職の大統領 金融商品をあっせん
彼はいま、定職には就いていないものの、「プレジデント」というよく分からない肩書で、「金融商品」をあっせんする仕事を手がけているのだという。
合コンで盛り上がるテーブル席とは違って、無職の僕らが腰かけるカウンターは、どこか空気がどんよりとしている。
2時間ほどたった後、彼のもとに、仕事を紹介してくれたというホスト風の男性「Aさん」という人物から連絡が入り、同じ居酒屋でそのまま合流することに。
2人は自分たちのビジネスを熱っぽく語るも、とにかく怪しい印象ばかりが深まり、いくら質問してもピンとくる答えが返ってこない。
甘美なビッグビジネスの形
ただ上手にやればお金持ちになれる商売らしく、悲壮感を隠し切れないプレジデントに対し、Aさんは毎晩銀座のキャバクラに通い、10万円近いお金を落としていくそうだ。
これも詳細はまったく不明だが、「太陽光発電の仲介ビジネス」とやらで大成功を収め、今の地位を築いたという。
「ウォーターサーバーでも一山当てた」
「一部上場企業の役員ともつながりがある」
「もっとデカいビジネスを今度立ち上げる」
場末の居酒屋に咲く成功譚に、僕は「すごいですね!」とAさんを持ち上げてみたものの、正直、そんな世界にまったく興味がない。
割り勘で居酒屋を後にする3人。
僕の道探しは、また振り出しに戻った。
次回連載⑧ではご「近所の目」についてまとめた。