久しぶりに友人Sとあったのは、街はずれの小さなバーだった。
1席しかないボックス席に腰を掛け、極端に薄いハイボールをちびちび口に含ませながら、思い出話に花を咲かせた。
僕 :「久しぶり。元気してた?。ぶーちょ覚えてる?彼、詐欺で捕まったんだよ」
S :「マジか!?まあ、昔から嘘つきだったからな。俺は正直、あいつが苦手だったわ。で、どんな詐欺を働いたの?」
運命のバー モテ男経営者「冒険家S」との邂逅
Sは、小学生時代の友達で、実は「ぶーちょ」と同じくクラスメートだった。
背の高いイケメンで、40歳を過ぎた今もカッコいい。
中学生の時分は、生徒会長を務める部活のキャプテンで、家もお金持ちという王子様だった。
キザな見た目ではなく、どちらかといえばワイルドな風体だ。
本当に彼はよくモテた。
バレンタインデーでは「トラック一杯分」とまではいかないまでも、とてつもない数のチョコレートをもらっていたのだった。
2人とも決して遊び人ではないのだが、往時、死ぬほどコンパをこなした「戦友」でもある。
今は小さな会社を経営していて、食べていくのに困らない程度の収入はあるようだったが、彼は根っからの「冒険家」だ。
食い扶持を確保するのに飽き足らず、物販だのFXだの、いろいろな事業に手を出しているようだった。
離職を告白 生きた過去の「親切」
「で、最近どうなの」とS。
彼は僕が記者を辞めたことをまだ知らない。
手短に経緯を伝えると、「面白いじゃん!」と予想外の反応が返ってきた。
「で、この先どうするの?」と興味津々のS。
「さあ、ノーアイデア。会社に戻れって、ありがたい申し出も頂いているんだけど。まあ、なんとかなるんじゃない」と、僕はどこか他人事のように答えた。
S :「ふーん…。戻る気がないんだったら、中国ビジネスやってみる?」
僕 :「中国ビジネス?何それ。怪しくないやつ?」
S :「もちろん。お前には借りがある。全部教えてやるよ」
僕 :「マジか?!」
「借り」というのは、プライバシーの問題もあるので明かせないのだが、人には親切にしておくべきだと、このとき、改めて思った。
ビジネスのアウトラインを伝えるのに、彼は僕に耳打ちしはじめた。
ビジネスへの疑心が薄れていくにつれ、僕の肌が粟立っていく。
無職になり、生きる道を模索する道中で、完全に意識を素通りさせていたビジネスだった。
それはAmazonだ。
次回連載㉓に続く。