こんにちは。
プーです。
父である僕を師に、子どもたちが空手を始めて3か月。
猛稽古の末、ついに初の実戦となる昇級審査の日を迎えました。
昇級審査に合格すれば、無級の白帯が「色付きの帯」に格上げされるとあって、子供たちも必死です。
もともと「ロマン重視」の稽古を重ねてきた僕らですが、残り1カ月は子供が涙しながら雄たけびをあげるほどの激しい鍛錬を重ねました。
「野生が目覚める」というのでしょうか、かつて、こんな我が子の姿を見たことがありません。
前人未到、白帯から黄色への「7段飛び」に成功するのでしょうか?
では、さっそくみてまいりましょう。
審査会当日
ついにこの日を迎えた。
審査会当日――。
血と汗と涙を流した3か月に及ぶ努力の日々がよみがえる。
親子で歩んだ「空手道」(からてみち)だが、ここから先は子供当人の戦いだ。
親というのは、実に無力である。
いざというときに、親は子に何もしてやれないものだ。
上の娘が脊椎にできた脂肪腫を剥がす大手術を受けたときも、僕は「親の無力」というものを感じた。
生きる知恵は与えてやれても、生きる力自体は親の手の届かないところにある。
だからこそ、この日はきっと、師も弟子と同じぐらい緊張していたのだろう。
「少しは落ち着け」と息子をたしなめる彼自身、朝から幾度もトイレに飛び込んでいるのであった。
熱気に満ちた会場
会場は市営体育館の武道場。
審査は「低学年」と「高学年」の2部制になっており、それぞれ午前と午後に分かれている(正確には夕刻から始まる「一般の部」を含めた3部制)。
上帯を目指さんとする低学年のちびっ子は、ざっと30人ほど。
予想をはるかに超える人の集まりに、目を見張る。
コロナ感染防止上、「保護者の同伴は一人まで」という制約があるものの、この日はギャラリーの数も選手と同数以上あり、道場は熱気に包まれていた。
父:「どうやら支部からも人が集まっているようだな。いよいよ決戦の時だ」
息子:「お父さん、お願いだからそのしゃべり方やめて欲しい」
息子のノリがイマイチ悪いのは、極度の緊張のためだ。
父も先ほどから心臓がバクバクいっている。
もうおしっこが漏れそうだ。
だが、練習は十分に積んできたはずだ。
息子の身体は引き締まり、まるで干し柿のようだ。

打ち込み、蹴り込みなど、打撃力を高める稽古にも余念はない。
動体視力は「BMM」(バウンディング・メテオ・メット)で入念に鍛えた。
そんな努力の結晶がいま、開花しようとしているのだ。
弟子よいけ!愛しい我が息子よ!
開始の合図

組手は、基本稽古や型などをへて、審査の最後に行われるのだが、会場全体の緊張感が一気に高まる。
道着をまとった15組の子どもたちが一斉に、拳を構えて向き合う。
息子の相手は格上の「オレンジ帯」だ。
彼も息子も表情は硬い。
見守るギャラリーも、緊張の色を隠し切れずにいる。
なかでも、震える手でスマホをかざす女性の姿は印象的だった。
我が子に向ける不安な眼差しには「怪我だけはしないで欲しい」という願いが込められているのだろうか。

逆に過大な期待を子に寄せる親もあったに違いない。
交錯するそんな親子の思いとともに、道場は静けさを増し、無音へと近づく。
隣の人が「ゴクリ」と生唾を飲む音まで聞こえる。
刹那、師範による「はじめ」の合図がこだました。
怒涛のラッシュ

格上のちびっ子相手に、気の弱い愛弟子はどのような戦いをみせるのか。
そんな実戦の初舞台となる注目の一戦にあって、先手を取ったのは、愛弟子の方だった。
ボディーを打った後、対戦相手の左サイドに回り込み、矢継ぎ早に下段、上段と鋭い蹴りを繰り出す。
反撃に転じた対戦相手が2,3回正拳突きを放つも、すべてバックステップでかわし、カウンターを意識しながら、下段、中段、上段とリズムよく突きと蹴りを打ち込む。
意外なことに、手塩にかけて育てた愛弟子は惚れ惚れするほど強かった。
もはやワンサイドゲームの様相で、蹴りとパンチの怒涛の連続攻撃で対戦相手を場外に追いやった。
調子づき、出来もしない「上段後ろ回し蹴り」まで繰り出す始末だ。
父:「え!?つ、強!!」。
開始から1分30秒。
かくして、あっという間に組手は終了した。
当初の心配はどこへやら、気の毒なのはむしろ対戦相手の方だ。
ヘッドガードで表情までは見えないが、相手の男の子はきっと泣いているに違いない。
ほかにも、チラホラ涙を流す子どもの姿があった。
皆、この日のために努力を重ねてきたのだ。
見事に初勝利を飾った弟子が、師のもとに駆け寄ってきた。
極度の緊張から解放されたものの、「興奮まだ冷めやらぬ様子」といったところか。
高ぶる気持ちのまま、我が弟子はこう言い放った。
「相手が弱すぎたよ」
その心無い言葉に、師であり父である僕は顔面蒼白に。
抱擁を求める息子の手を払いのけ、思わず怒鳴りつけてしまった。
娘の実力は?
お父さんにきつく叱られ、べそをかく愛弟子。
折角の初勝利を「最悪の失言」で濁す形になったが、内容自体は悪くなかった。
この調子だと、娘の実力にはもっと期待できる。
追い込みの1か月、実のところ、著しい成長をみせたのは娘の方だ。
次回に続く。
親子空手の話題はしばらく連載形式で続けます。
どうか最後までお付き合いくださいませ。