こんにちは。
プーです。
プーログ再開以来、親子空手の話題をお届けしておりますが、今回は少し脱線し、プー姉弟の厳しい稽古を見物する「ギャラリー」の方々にスポットを当てました。
話の本流とはあまり関係ありませんが、ギャラリーの中に一人、インパクトが強烈な方がいたため、「いつか書きたい」と思っていました。
人物の特定を防ぐため、事実関係を少しぼかしている部分もありますが、そのあたりは笑って許して頂ければ幸いです。
では、どうぞ。
猛稽古にギャラリーも
人づてに聞いた話では「〇〇公園に夜な夜な空手親子が出没する」と僕らの稽古が近所でも話題になっているそうだ。
実際、トーナメント制覇に向けた2か月間の練習量は、昇級審査のそれとは比較にならない。
手作りの水袋もAmazonで購入した安物のミットも、激しい蹴り込み練習の末に千切れ飛んだ。
柔らかい素材で組手に適した100円ショップのサンダルは、軸足の回転時に底が擦り切れ、すでに3足目になる。
使い込んだ防具は大量の汗を吸って黒ずみが落ちず、
「ペットショップの匂いがしている」(息子談)くらいだ。
そんな激しい稽古とあって、時折家路に急ぐ通行人が足を止め、修行のようすを見物していくことがある。
基本的に皆、マナーの良い人ばかりだが、なかには辟易させられるようなギャラリーもいる。
とくに、おげれつな話題で大騒ぎする不良少年には困ったものだ。
(マンガのような)空手の稽古に興味を持ってもらうのはいいが、すくなくとも、子どもの前での「下品な会話」は慎んでもらいたい。
小さな子どもにおかしな質問をぶつけられたところで、父としては説明に困るばかりで、対処のすべは「何も知らぬふりを決め込む」以外にないのである。
また動画撮影されたり、SNSに投稿されたりすることもあるようだが、時代が時代だけに、そちらはあまり気にしないようにしている。
そんな感じで、子どもと空手の練習をしていると色々なタイプのギャラリーが現れるのだが、道着姿の不気味な親子に接触するような人はあまりいない。
ところが過去に一人だけ、プー一家のそばまで近づき、接触を図ってきた奇特な人がいた。
空手の達人然とした「謎の老人」である。
その正体はいまも神秘のベールに包まれたままだ。
老人の覇気
知らない人に、突然すぐそばでじっとみつめられると、得体の知れない恐怖を感じるものだ。
煙草の煙をくゆらせるくだんの老人は、街灯を背に、神秘的なシルエットを浮かび上がせていた。
ひょっとすると、これは幾度も死線を超えた者だけが放つ覇気の一種かもしれない。
そんな、そこはかとない恐ろしさだ。
「子供の前でタバコを吸うのはやめて欲しい」という父としての繊細な気持ちも働いたのだが、この暗黒街の住人にそんな世間の常識は通用しない。
謎の老人は「姉弟組手」が終わるまでじっと待ち、口を開いた。
「君も空手家か?」
男の銀河
老人が話しかけた相手は、子どもでなく僕の方だった。
以前書いた通り、僕には空手の経験がない。(⇒詳細は連載第一回目)
だがあろうことか、「ポジショニングが甘い」だの「そうだ、そのフックだ」だの、熱を帯びた僕の指導がこの「本物の男」にすべて見られてしまっている。
子どもの手前もあり、いまさら「違う」とはいえない。
父:「…はい、一応」
老人:「そうだと思った」
齢(よわい)70といったところか、どこか憂いのある老人は目を細め、軽くうなづいてみせた。
老人:「そうだと思った」
なぜか老人は、同じ言葉を2度繰り返した。
どことなく自分と同じ匂いがするのは、気のせいだろうか。
とにかく僕は、着ている道着が柔道着だとばれないか、気が気ではなかったのだが、そんな不安をよそに謎の老人は自身の過去を語り出した。
麗しのバナナ御殿
老人の口から発せられる自身のエピソードは、我が耳を疑うほどインパクトが強く、驚きを禁じ得ない内容ばかりだった。
空手に明け暮れた若かりし時代の逸話、返還前の沖縄で複数の米兵を打ち負かした武勇伝、そして、銃を持つヤクザを相手に戦った暗黒時代の秘話…。
空手の話題はともかく、「バナナの貿易で屋敷を建てた」という話から雲行きが怪しくなり、その大部分が法螺話(ほらばなし)だと気づくまでに、そう時間はかからなかった。
「ヤクザに撃たれた銃創」だと説明する腕の傷は、どうみてもただの火傷だ。
「え、それ火傷のような」と問いただしても、「いや、銃で撃たれた傷だ」と譲らない。
そもそも、柔道着と空手着の見分けがつかない時点で怪しいものだ。
息子だけが「いっぱい血が出たの?」と老人の法螺話を真に受けるのであった。
※次回は、「親子空手の壁」をテーマにお届けします。
本ブログの「親子空手編」を始めてお読みになられた方は、よろしければ連載1回目からお読みください。⇒第一回はこちら
記事10本分ほどです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。