プーログ

ジャーナリストから転身 40代妻子持ちが自由に生きてみた

小学生姉弟の空手修行|地獄ミットは親のエゴ?無職父の心中とは

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こんにちは。

 

プーです。

 

先月から、無職で暇な僕が我が子に空手を教える「親子空手」の話題について、連載形式でお届けしております。

 

前回、トーナメント出場に至るまでの軌跡を描く「2章」に突入したわけですが、今回は優勝をかけた厳しい修行のなかでも、姉弟が最も嫌がった「地獄ミット」の話題についてご紹介します。

 

では、どうぞ。

 

関西弁のデスピエロ

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昇級審査に向けた2か月の稽古は、これからはじまる地獄に比べると児戯(じぎ)に等しかった――。

 

泣いてもあきまへん!左ミドル(中段蹴り)をもう1セット、おかわりだす!

 

エセ関西人を気取る父の言い回しに、反応している余裕もない息子。

 

鬼の形相で、再びミットを蹴り込む。

 

いまのがユーのマキシマムですか?またやり直しますか?

 

涙を流しながら咆哮(ほうこう)し、ピッチをさらに加速する。

 

「OKボーイ、それでいい。さあ次はお姉はんの番でっせぇぇ!

 

 

娘は自分に「注射の番」が回ってきたような、情けない表情を浮かべた。

地獄ミットの日

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今夜は3日に1度の「地獄ミットの日」だ。

 

下段蹴り、中段蹴り、上段蹴り、膝蹴り、正拳突き、アッパー、フック、コンビネーションなど、オーソドックスな打撃技をそれぞれ左右100本ずつ、一定の強度とリズムで打ち込むものだ。

 

少しでも甘さが出れば「やり直し」を言い渡されるのが、地獄たるゆえんだ

 

地味ながら、この修行はとても苦しい。

 

なかでも上段蹴りのやり直しは、子どもにとっての最悪の事態だ。

 

無職の父からこの残酷極まりない宣告を受けると、子どもたちは決まって怒りに歯を食いしばり、なかばやけくそになって蹴り込みをはじめる。

 

地獄ミットの日、父は徹底していやらしいピエロを演じるのだった。

 

限界を超えた先に

確かに、悲痛な子どもの表情に父自身の心が折れ「そうだ、そのフックだ」などと適当なことを言って中断してしまうこともある。

 

が、甘いだけが親の優しさではない。

 

現に、プー姉弟のなかに芽生えた空手への自信は「人生初の限界を超える稽古」からきている

 

 

とはいえ、己の理想を子に投影する「親のエゴ」ほど恐ろしいものはない。

 

ある意味で、子からすれば親は生殺与奪の権を握る、ほとんど暴君に近い圧倒的な存在だ。

 

そんな親から無理矢理「地獄空手」を迫られるとなると、たまったものではない。

 

つまり、ひとつの夢を追う親子の共同作業は、「火加減」がとても難しいのだ

 

とくに空手の場合、「子どものだらしなさ」が勝っても、「親の過大な期待」ばかりが目立っても、きっと、あまり幸せな結果にはならない。

 

千切れ飛ぶミット

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新たな奥義「虎鉞」(こえつ)の稽古中、ついにミットの持ち手が千切れ飛んだ。

 

Amazonで購入した安物とはいえ、とくに娘の蹴りは小学生とは思えぬ威力だ。

 

トーナメントに向けたハードな練習に、最初は涙目で怯えるばかりだった姉弟も、ここにきてどんどんた逞しくなっている。

 

僕は安定した職を手放して、自由を買い、子どもとの濃密な時間を得た。

 

お金への心配は尽きないが、後悔は微塵もない。

 

そんな父のことを、大人になった君たちはどう受け止めるのだろうか。

 

父:「よし、最後にお父さんの肩に『逆雷』だ」

娘:「ゥンワークック!

父:「痛っ!」

 

その答えは、いまのところ誰にもわからない。

無職父と小学生姉弟の地獄空手|大会優勝に照準【ドキュメント連載・新章】

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こんにちは。

 

無職の父、プーです。

 

プーログを11月に再開して以降、空手経験のない僕の指導の下でプー姉弟がマンガのような猛稽古に打ち込む「親子空手編」をお届けてしております。

 

白帯からオレンジ帯への昇級までをつづった「昇級審査編」が前回で終了し、今回からは、トーナメント出場に至るまでの道のりを描く「新章」がスタートします(⇒連載初回はこちら)。

 

昇級審査後プー姉弟は、トーナメント出場に向けて、これまで以上に激しい猛稽古に挑む一方、「出げいこ」や「異種格闘技戦」などにも挑戦します。

 

またこの間、中二病の父が考案した「逆雷」(さかいかづち)に続く奥義も完成させました。

 

新章第一回は「いまの実力」(当時)の話題です。

 

では、ご覧ください。

 

※リアルタイムではプー親子が空手を始めて7カ月目に突入したところです。

いまの実力

「ここから先の修行は本当に厳しいものになる。地獄空手のはじまりだ。ただ、駆け抜けた修行の日々は親子にとって一生の思い出に…こら、テレビを見ないで。ちゃんとお父さんの話を聞きなさい」

 

凍らせたヤクルトをチューチュー吸いながら、録画番組のスポンジボブに集中するプー姉弟

台所用スポンジのイラスト

 

父の話は聞いていない

 

テレビの中では、ヒトデを擬人化したスポンジボブの親友「パトリック」が、体中の水分を失って急速にしぼんでいく。

 

その滑稽な姿に、親子3人そろって爆笑した。

 

フルコンタクト空手の大会出場まであと2か月――

 

「事実は小説より奇なり」という言葉があるが、猛稽古の先に興奮と感動のドラマが待っていることを、このとき誰も予想できなかった。

エンジョイクラスと選手クラス

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実戦の初舞台となる昇級審査の組手では、それなりの実力を示した姉弟であったが、トーナメント試合となると、話は少し変わってくる。

 

フルコンタクト空手を学ぶ子どものなかには、実は試合に出場しない子も多い

 

道場の中でも門下生のスタンスははっきりしていて、試合への出場を目指す「選手クラス」と純粋に空手を楽しむ「エンジョイクラ」が曜日・組別に分かれている。

 

練習内容、空手に向き合う姿勢ともにほとんど真逆だ。

 

プー姉弟が属するエンジョイ組は、練習中に「ちびっ子の談笑」が聞こえるのに対し、選手組は張り詰めた空気のなかで「ゼイゼイ」「ハアハア」ばかりが目立つ。

 

とくに週3回以上道場に通う「ゴールド会員」の練習量は凄まじく、選手クラスの中でも事実上、大会の上位入賞を目指す「特練クラス」になっている。

 

やはりゴールド会員は皆、おしなべて強い。

 

ゴールドなのは月謝だけではないわけだ

 

 

少なくとも、稽古の質・量ともに選手クラスの域にまで高めなければ、各流派の精鋭が集う試合で勝ち上がるのは難しい。

 

急速にしぼむパトリックに爆笑している今のままでは、優勝は絶望的だ

 

残り2か月、進化は必須

日めくりカレンダーのイラスト(月跨ぎ)

子どもにとって「2か月」という期間は夏休みよりも長く、成長を促す時間的なゆとりも十分だ。

 

とくに、かつてない「新鮮な経験」は大きな糧になる。

 

ときに漫画やゲームの世界にみられる「覚醒」「クラスチェンジ」「合体」に匹敵するほどの、急激なバージョンアップがみられることもある。

 

 

とはいえ、子どものフルコンタクト空手の試合にあって、圧倒的に有利なのは「体格」とともに「経験年数の差」だ。

 

空手の経験が浅く、試合のルール(判定の基準)さえはっきりと分かっていないプー姉弟は、試合で明らかに不利といえる

 

つまりこの2か月で、「経験の差」をカバーするだけの実力を付けねばらならない。

 

かくして、トーナメントに向けた稽古は過酷を極め、「出げいこ」や「異種格闘技戦」、「滝行」などあらぬ方向に発展していくのだった。

 

次回に続く。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

初めての方はぜひ初回から読んでみてください。

⇒連載初回はこちら)。

無職父、寂しさに涙腺崩壊|娘11歳の誕生日に卒業したもの

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先週、娘が11歳の誕生日を迎えた。

 

我が子の成長はうれしいようで寂しい。

 

手をつないで歩いた幼年期はもう遠い過去。

 

彼女は歳を重ねるにつれ、どんどん僕の手から離れていってしまう。

 

 

 

先日、娘にどんな誕生日プレゼントが欲しいかをたずねると、「もうおもちゃはいらない。新しい自転車が欲しい」と言い出した。

 

確かに、7歳のときに祖母に買ってもらった自転車は、すでに彼女の体格に合っていない。

 

後ろから見ると自転車にまたがるサーカスのクマのような、そんなアンバランスさを感じる。

新しい自転車を欲しがるのは当然かもしれない。

 

 

ただ僕は、トイザらスでおもちゃに目を輝かせる彼女の姿がとても好きだった。

 

そんな彼女を見守る祖父母の温かい眼差しも、たまらなく好きだった。

 

あれだけ欲しがったリカちゃんのドレスに、彼女が心を動かされることはもうないのだろう。

 

 

愛情と祝福に満ちた誕生日会、ストローでシャンメリーをブクブクする姿に少しホッとするが、どうしても寂しさを押さえきれない。

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姉弟喧嘩の火種となった特等席「お父さんの膝」も、最近、あっさり弟に譲ってしまうようになった。

 

可愛い盛りの子どもには賞味期限があるものの、期間限定のその味わいは、何物にも代えがたい価値がある。

 

いつか娘が子供を卒業する日まで、僕はこの人生最高の三ツ星グルメを味わい尽くしたいと思う。

 

 

親子空手の連載は今回お休みしました。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

小学生姉弟の空手道|奇跡の逆転劇に忍び寄る「大人の事情」昇級審査のゆくえは?

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こんにちは。

 

プーです。

 

今回も、リアルな厳しさをもってマンガのような技を鍛える「親子空手シリーズ」をお届けします。

 

残り時間あとわずかのところで放った変則型の上段蹴り「逆雷」(さかいかづち)が決まり、娘は対戦相手を追い詰めました。(前回参照

 

このままダウンを奪えば一本勝ち。

 

「7段飛ばしの飛び級」が視界に入ります。

 

娘は白帯から黄色帯へと一足飛びに昇級できるのでしょうか。

 

親子空手「昇級審査編」の最終回、ではどうぞ。

千載一遇のチャンス

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組手の最終局面で変則型の上段蹴り「逆雷」(さかいかづち)を相手のこめかみにヒットさせた娘。

 

対戦相手の子はヘッドガード越しに頭を抱え、下を向いてしまった。

 

ここで追い打ちをかければ、ダウンは必至だ。

 

つまり「一本勝ち」になる。

 

午前、午後の部を通して、まだ一本勝ちを決めた子はいない

 

7段飛びはもう目の前だ。

 

信じられない光景

3カ月に及ぶ努力がまさにいま、目の前で開花しようとしている。

 

いっけぇ~!」などとアニメのように叫びたいのを我慢して、僕はこぶしを握り、次のアクションを見守った。

 

ところが、「逆雷」を決めた後に娘がとった行動は、追撃ではなかった。

 

相手から遠ざかり、構えをニュートラルに戻すための「バックステップ」だったのだ。

 

今度は反対の意味で大きな声を出しそうになった。

 

師範:「はい!やめぇ」

 

ここで組手終了の合図。

 

最後の最後で、彼女の「柔らかい性格」が裏目に出てしまったのだ。

空手の動機

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3か月前――。

 

弟の体験入門についてきた娘が「私も空手をやりたい」と珍しく駄々をこねた。

 

正直なところ、いまのプー家は貧乏だ。

 

父は再び無職に転落し、お金に一切の余裕はない。

 

 

どうして空手がやりたいのか、訳を聞いてみた。

 

「カッコいいし面白そう。いじめられっ子を助ける人になりたい」

 

殊勝な理由を口にするのはひょっとして、火柱・煉獄杏寿郎の影響だろうか。

 

いずれにしても、「やっつける」のでなく「守る」というのが空手を始めた彼女の動機だった。

 

 

期せずして、実戦の場でこの言葉に嘘偽りがないことを証明した形だ。

 

真剣勝負である以上、手抜きは禁物だが、勝負の見えた相手を追い詰める必要はないともいえる。

 

なかなか偉いではないか。

 

「7段飛ばしは無理でも、3段飛びくらいはできるだろう

 

この期に及んで父はなお、邪(よこしま)な心を捨て切れず、捕らぬ狸の皮算用にふけるのであった。

講評

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審査会の最後に師範から講評があった。

 

初老の師範には、いくども死線を超えた者だけが宿す威厳が漂う。

 

眼光も鋭い

 

「週1会員のなかにひとり、光る子がいた。大切なのは隠れた努力だ。それが心と体を強くする」

 

蓄えた顎鬚(あごひげ)を指でつまみながら、威風堂々、師範は「見事だった」と大きくうなづいた。

 

この時点で父は「飛び級は間違いない」と確信し、密かに小躍りするのであった。

審査結果発表日

空手の稽古を始めて3カ月――。

 

この間、近所でおかしな噂を立てられ、不良中学生に「BMM」での訓練をあざけられた。

 

休日の朝練では「俺にも叩かせろ」とミットにしがみつく質(たち)の悪いちびっ子らを雑に追い払い、遠巻きに見る保護者らからひんしゅくを買いながら、奥義の特訓を繰り返した。

 

見事だった

 

あの日の師範の言葉を反芻(はんすう)し、ほくそ笑む。

 

きょうは、待ちに待った審査結果の発表日だ。

 

パーティーの夜に

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我が家の食卓には、ハンバーグにフライドチキン、ウインナーに子供ビールと父と子の大好物がずらりと並ぶ。

 

いずれも業務スーパーで購入したものだが、味の要(かなめ)は食材や鮮度ではなく、「誰とどこで食べるか」にかかっている。

 

現役時代料亭で食べた御馳走よりも、きっと今夜のディナーは一生忘れられない味になるだろう。

 

息子:「ただいまぁ」

 

プー夫妻はパーティー三角帽子をかぶって、子供たちを出迎えた。

 

 

「お帰り!どうだった?」

 

そう聞くより先に、息子の腰に目を落とす。

 

そこにある「ベルトのカラー」に、我が目を疑った。

 

姉弟そろって、帯の色は同じだ。

 

想像だにしない、まさかの「オレンジ色」だった。

 

大人の事情

さかのぼること1か月前――。

 

娘:「師範、どうすれば飛び級できるのですか?」

師範:「組手で自分の強さを示しなさい。ただ、それだけだ

 

我々親子が「飛び級」に照準を合わせ、技の研鑽に精進してきたのは、この言葉を信じたからだ。

 

審査結果発表の帰り際、娘が師範に飛び級できなかった理由を尋ねると、メルセデスの後部座席から飛び級は(週3以上の)ゴールド会員からだよ」と言われたそうだ。

 

父:「何がゴールド会員だ!そんなバカな話があってたまるか!」

 

怒りに任せて床に叩きつけた三角帽子がバウンドし、ヒラヒラのついた先端が道場の方角を指して止まった。

 

母:「だったら、帯の色は空手の強さと関係ないじゃない」

 

普段はポーカーフェースを決め込む妻も、この日ばかりは露骨に不快感をあらわにした。

子どもの反応

あの「見事だった」は一体何だったのか。

 

それに、全然「だだ、それだけ」でもなかった。

 

 

「聞いていた話と違ったね」と顔をしかめてみせる息子だが、意外なことに目は怒っていない

 

オレンジ帯の端をパタパタと揺らしながら「うわぁ、今日は凄いごちそう」とはしゃいでいる。

 

むしろ「色付きの帯」を巻く喜びを隠し切れないようでいた。

 

娘は「ゴールド会員の友達は2段も飛び級していた」とこぼしながらも、激しく落ち込んでいる感じではない。

 

「まあ昇級できたし、別にいいかな」と結構淡白だ。

 

 

結局、帯の色に強くこだわっているのは、大人だけなのかもしれない

 

それも皆、経済的な理由でだ。

 

 

「まあよく考えると、週1会員の飛び級は道場のメンツにも関わりそうだし、仕方がないことかも」と深いため息をつく僕。

 

そんな重い空気を払しょくするように、娘がこう切り出した。

 

そんなことよりお父さん、今度試合があるんだって。出てみたい!

 

いま、地獄空手の門が開いた。

 

僕が「親子の空手話」を書こうと思ったのも、ここから始まる物語に大きな価値を感じたからにほかならない。

 

 

次回から新章がスタートします。

 

初心者の頂点を目指すべく、死に物狂いで打ち込んだ空手の稽古と「トーナメント」の結果について、詳報してまいります。

 

どうか最後までお付き合いください。

 

最初から読んで頂くと面白いです。⇒連載第1回はこちら。

マンガのような展開に鼻血|初試合で奥義炸裂⁉無職父と姉弟の空手道

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こんにちは。

 

プーです。

 

今回のプーログも、無職の父指導の下、小学生姉弟が猛特訓に励む「親子フルコンタクト空手」の話題をお届けします。

 

姉弟は3カ月間毎日、近所で噂になるほど激しい稽古に打ち込み、ついに昇級審査で「組手デビュー」を果たしました。

 

姉に先んじて審査に臨んだ弟は、格上の相手に圧倒的な強さをみせて快勝

 

続く姉は、弟以上に実力を付けただけに、さらに期待がかかります。

 

が、いざふたを開けてみると、姉の拳にはまったく力が乗っておらず、とても重い滑り出しになりました。

⇒前回記事参照連載第1回はこちら

 

入念に準備してきた実戦の初舞台は、見せ場を残せないまま終わってしまうのでしょうか。

 

そして、プー一家が目指した「飛び級」のゆくえは?

 

早速、ご紹介してまいります。

しあわせのありか

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娘はもともと、勝負へのこだわりが薄い。

 

勝ち負けよりも「楽しむこと」を選んできた。

 

これは「しあわせのありか」を知る小さな子どもだけの特権かもしれない。

 

とくに幼稚園の運動会のかけっこでみせた笑顔は、僕の胸に突き刺さった。

⇒過去記事参照

 

必死の形相で競争に挑む子らを尻目に一人、満面の笑みをたたえて走っていたのだ

 

その写真はいまもパソコンの壁紙にしている。

 

 

小学校に入っても、かけっこが苦手な友達に頼まれ、勝負を放棄し一緒にゴールしたことがあった。

 

そんな柔らかい性格が、真剣勝負の舞台で足を引っ張っているのかもしれない。

 

心に不安がよぎった。

 

手加減の正体

組手終了まで残り1分。

 

毎夜公園で研鑽(けんさん)を積んだはずの彼女の動きは、相変わらずアシモのようだ

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時間だけがどんどん過ぎていく。

 

このままでは「黄色帯への7段飛び」など、夢のまた夢だ。

 

 

いうまでもなく、真剣勝負の世界で手心を加えるのはご法度だ。

 

ただ、手加減しているようにも思えない。

 

 

娘と対戦相手との戦いは、ギャラリーの方に近づいたり、遠ざかったりを繰り返し、酒場にいる「流し」のごとく、僕のそばにも近づいてきた。

 

彼女の顔を見るなり、僕はハッとした。

 

ヘッドガード越しに垣間見える彼女の顔は蒼白で、明らかに目つきもおかしかったのだ。

 

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見間違えかもしれないが、白目をむいたような状態になっている

 

まばたきさえ忘れ、ただ相手の顔一点をみつめてぎこちない組手を続けている。

 

ここにきて、僕はようやく悟った。

 

手加減などではない。

 

彼女は異常なまでに緊張していたのだ

 

ラスト30秒

ストップウォッチのイラスト

3カ月間の努力が試される場だけに、緊張するのは仕方がない。

 

ただ、このまま見せ場もなく終わってしまっては、あまりにも残念だ。

 

毎晩、彼女はほんとうによく頑張った。

 

生れてこの方、娘がこんなに努力をしたのは初めてではないだろうか。

 

父の身体をサンドバックに見立てた打撃訓練をはじめ、片足で「アンパンマンのポーズ」を維持するバランス訓練、雄たけびを上げながら蹴り続けたミット打ち…。

 

BMMもした

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練習量に限っては、白帯の中で誰にも負けない自負があったはずだ。

 

「はい、ラスト30!」

 

組手の残り時間を知らせる師範の声を聞いた瞬間、僕の脳裏にある打開策が浮かび上がった。

 

裏切らない反復練習

「もう時間がないよ。勝負勝負!」

 

戦いを煽る師範の檄(げき)に、娘の焦りは一段加速する。

 

顔色を失いながら、僕をチラ見している。

 

ただ、組手審査中に親が子供に声をかけるのは、完全にマナー違反だ。

 

 

だから僕は彼女に視線を送り、身体をグッとねじってみせた。

 

父と娘にしか分からない即席のサイン。

 

逆雷」の合図だ。

 

 

逆雷は、空手を知らない父の妄想から生まれた大仰で胡散臭い技ながらも、決して「まがい物」ではない

 

磨いた時間と熱量は紛れもなく本物だ。

 

来る日も来る日も、繰り返し練習を重ねた。

 

BMMを制作した変人で、某スポーツクラブを経営する友人は「反復練習ほど効果の出る訓練はない」と言い切る。

 

とくに空手の場合、「瞬時の判断」よりも、「刹那の反応」で動く局面の方が明らかに多い。

 

夜ごと重ねた反復練習は、決して裏切らないはずだ。

 

 

秘密のサインを受け取った娘は指示通り、グッと腰をひねり、「逆雷」の体勢に入った。

 

マンガのような展開に、僕は鼻血が出るほど興奮した

 

決めろ!起死回生の逆雷

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中二病の父が夢見がちな娘とともに編み出した逆雷は、いわば上段の変則蹴りだ。

 

背筋をねじって力を溜め、反力に乗せて一気に解放するイメージだ。

 

軌道は直線的な前蹴りに近く、相手からとても見えにくい。

 

さらに一般的な上段蹴りのモーションとは逆の方向から入るため、自動的に「フェイントの効果」も働く。

 

つまり、初心者がこの技をかわせる道理はないわけだ

 

 

緊張のせいもあって、幸い、彼女は今日一度も上段蹴りを放っていない。

 

仕掛けるならいまだ。

 

 

「バチッ!

 

 

ガチガチながらも、彼女の放った「逆雷」は、見事相手のこめかみを捉えた

 

水袋を蹴破ったときほどの威力はないにせよ、逆雷をまともに食らった対戦相手はヘッドガードを両手で押さえたまま下を向き、動きを止めた。

 

午前、午後の部を通して「一本勝ち」を決めた選手はまだ誰もいない

 

このままダウンを奪えば「7段飛び」ももはや夢ではない。

 

時間はまだある。

 

ついに悲願に王手をかけた娘の足が再び動く。

 

結果はいかに。

 

続く。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

⇒前回記事参照連載第1回はこちら

空手姉弟と40代無職の父|猛特訓で娘が「戦闘ロボ」に

f:id:ueaki:20211126130435j:plainこんにちは。

 

プーです。

 

今回も、厳めしい稽古で近所の噂になっている「小学生姉弟空手」の話題をお届けします。

 

前回で終わらせるはずだった「昇級審査編」ですが、書いているうちに話が長くなり、持ち越してしまいました。

 

空手を始めて3カ月、マンガのような厳しい稽古に励んだ姉は、初の実戦の舞台でどのような戦いぶりをみせるのでしょうか。

 

審査当日の模様とあわせて、ご紹介いたします。

奥義「逆雷」

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民家から離れた国道沿いの公園――。

 

道着姿の美しいシルエットが月夜に浮かぶ。

 

プー家の長女である。

 

 

対峙するのは、ブランコに吊るされた水袋

 

丹田に意識を集中したまま、脊柱起立筋を斜め方向にねじり上げる。

 

刹那、おかっぱ頭の少女は「カッ」と目を見開き、閃光のような上段蹴りを放った。

 

回し蹴りというよりは、前蹴りに近い角度だ。

 

水袋のど真ん中に、少女の前足部が鋭く突き刺さる。

 

ぺちん!

 

水袋から飛び散る水しぶきが街灯に照らされ、見事な「虹のアーチ」を描いた

 

ふーっ、できたわ

 

少女は道着の袖で汗をぬぐう。

 

父がエセ解剖学と妄想の中から編み出した奥義「逆雷」が完成したのだ。

余裕綽々

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この日は午前中に下の子が審査を終え、娘の番は午後からだった。

 

普段より口数こそ少ないが、弟ほど緊張しているようすはない。

 

決戦の舞台となる市民体育館に着いたときも、開口一番、「楽しみ!」と余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の表情を浮かべた。

 

 

午後の部の昇級審査に参加したのは高学年児童ら40人ほどで、当然ながら皆、低学年の子供たちよりも一回り大きい。

 

なかには身長が170㎝を超える大きな子もいる。

 

それでも娘は気後れするそぶりもなく、審査が始まってからも、娘は終始落ち着いたようすだ。

 

基本の型も、中上級者さながらの美しいフォームでこなす。

 

続く基礎体力審査では、規定回数を超えてなお「腕立て」「腹筋」「スクワット」を続け、見せ場をつくった。

 

その姿勢に、一度は手を止めた白帯のちびっ子たちも負けじと続く。

 

互いに競い合い、高め合う光景に、審査員は大きくうなづき、優しく目を細めた。

 

 

ここまでは、想定以上に順調だ。

 

あとは大本命の「組手」を残すのみとなる。

捕らぬ狸の皮算用

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実のところ、娘の組手は最初からあまり心配をしていなかった。

 

彼女の放つ中段蹴りはすでに、父の持病「ヘルニア」悪化させるほどの威力にまで高まっている

 

昇級はほぼ間違いない。

 

 

問題はどの程度「飛び級」できるかだ

 

我々師弟が見据えるのは、前人未到の「7段飛び」。

 

つまり、一気に「黄色帯への昇級」を狙うわけだ。

 

これにより、ブラックベルトに至るまでの費用が3万5000円も浮く。

 

 

防具を付けて組手に備える娘の隣で、師である父はそんな「捕らぬ狸の皮算用」にふけっていた。

 

開始10秒前

組手開始の合図を待つ道場は、静けさに包まれていた。

 

未来の空手キッズたちがファイティングポーズを取り、バチバチと火花を散らしてにらみ合う。

 

20人が一斉に向き合う光景は、なかなか壮観だ。

 

 

娘の相手は格上の「オレンジ帯」で、学年は同じ。

 

互いに緊張の色は隠せない。

 

 

例のごとく、道場は水を打ったような静けさに支配され、ただならぬ緊張感が漂う。

 

逆に、廊下で話す人の声は丸聞こえだ。

 

やっぱり僕、おかわりすればよかったよ」というまるで締まりのない会話が場の空気を濁らせる。

 

それでも、笑うものはいない

 

そんなシュールな静寂が「はじめ!」の合図で破られた。

戦闘ロボット

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飛び級」を目指して毎晩稽古に励んだ娘の動きはまるで、重厚感のある「昭和の戦闘ロボ」のようだった。

 

棒立ちの構え。

 

覚束ない足取りでサイドステップを踏む。

 

「ん?」

 

カクカクした動きで繰り出す下段蹴りは、まったく体重が乗っていない。

 

「…え!?」

 

とにかく、すべての動きが緩慢だった。

 

宇宙服を着た人間が月面で戦うような、そんなスピード感だ

 

 

まさかの展開に激しく戸惑う僕。

 

「ひょっとすると、手加減しているのか?」

 

 

娘の組手が精彩を欠く理由。

 

その原因は、とても意外なところにあった。

 

次回に続く。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

小学生姉弟、実戦の初舞台へ|3か月に及ぶ親子の修練、結果は?

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こんにちは。

 

プーです。

 

父である僕を師に、子どもたちが空手を始めて3か月。

 

猛稽古の末、ついに初の実戦となる昇級審査の日を迎えました。

 

昇級審査に合格すれば、無級の白帯が「色付きの帯」に格上げされるとあって、子供たちも必死です。

 

もともと「ロマン重視」の稽古を重ねてきた僕らですが、残り1カ月は子供が涙しながら雄たけびをあげるほどの激しい鍛錬を重ねました

 

「野生が目覚める」というのでしょうか、かつて、こんな我が子の姿を見たことがありません。

 

前人未到、白帯から黄色への「7段飛び」に成功するのでしょうか?

 

では、さっそくみてまいりましょう。

 

審査会当日

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ついにこの日を迎えた。

 

審査会当日――。

 

 

血と汗と涙を流した3か月に及ぶ努力の日々がよみがえる。

 

親子で歩んだ「空手道」(からてみち)だが、ここから先は子供当人の戦いだ。

 

 

親というのは、実に無力である。

 

いざというときに、親は子に何もしてやれないものだ。

 

上の娘が脊椎にできた脂肪腫を剥がす大手術を受けたときも、僕は「親の無力」というものを感じた。

 

生きる知恵は与えてやれても、生きる力自体は親の手の届かないところにある。

 

 

だからこそ、この日はきっと、師も弟子と同じぐらい緊張していたのだろう。

 

少しは落ち着け」と息子をたしなめる彼自身、朝から幾度もトイレに飛び込んでいるのであった。

 

熱気に満ちた会場

会場は市営体育館の武道場

道場のイラスト(背景素材)

審査は「低学年」と「高学年」の2部制になっており、それぞれ午前と午後に分かれている(正確には夕刻から始まる「一般の部」を含めた3部制)。

 

上帯を目指さんとする低学年のちびっ子は、ざっと30人ほど。

 

予想をはるかに超える人の集まりに、目を見張る。

 

コロナ感染防止上、「保護者の同伴は一人まで」という制約があるものの、この日はギャラリーの数も選手と同数以上あり、道場は熱気に包まれていた。

 

 

父:「どうやら支部からも人が集まっているようだな。いよいよ決戦の時だ

 

息子:「お父さん、お願いだからそのしゃべり方やめて欲しい

 

 

息子のノリがイマイチ悪いのは、極度の緊張のためだ。

 

父も先ほどから心臓がバクバクいっている。

 

もうおしっこが漏れそうだ。

 

 

だが、練習は十分に積んできたはずだ。

 

息子の身体は引き締まり、まるで干し柿のようだ

干し柿のイラスト

打ち込み、蹴り込みなど、打撃力を高める稽古にも余念はない。

 

動体視力は「BMM」(バウンディング・メテオ・メット)で入念に鍛えた。

 

 

そんな努力の結晶がいま、開花しようとしているのだ。

 

弟子よいけ!愛しい我が息子よ!

開始の合図

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組手は、基本稽古や型などをへて、審査の最後に行われるのだが、会場全体の緊張感が一気に高まる。

 

道着をまとった15組の子どもたちが一斉に、拳を構えて向き合う。

 

息子の相手は格上の「オレンジ帯」だ。

 

彼も息子も表情は硬い。

 

 

見守るギャラリーも、緊張の色を隠し切れずにいる。

 

なかでも、震える手でスマホをかざす女性の姿は印象的だった。

 

我が子に向ける不安な眼差しには「怪我だけはしないで欲しい」という願いが込められているのだろうか。

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逆に過大な期待を子に寄せる親もあったに違いない。

 

 

交錯するそんな親子の思いとともに、道場は静けさを増し、無音へと近づく。

 

隣の人が「ゴクリ」と生唾を飲む音まで聞こえる。

 

刹那、師範による「はじめ」の合図がこだました。

怒涛のラッシュ

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格上のちびっ子相手に、気の弱い愛弟子はどのような戦いをみせるのか

 

そんな実戦の初舞台となる注目の一戦にあって、先手を取ったのは、愛弟子の方だった。

 

ボディーを打った後、対戦相手の左サイドに回り込み、矢継ぎ早に下段、上段と鋭い蹴りを繰り出す。

 

反撃に転じた対戦相手が2,3回正拳突きを放つも、すべてバックステップでかわし、カウンターを意識しながら、下段、中段、上段とリズムよく突きと蹴りを打ち込む。

 

 

意外なことに、手塩にかけて育てた愛弟子は惚れ惚れするほど強かった

 

 

もはやワンサイドゲームの様相で、蹴りとパンチの怒涛の連続攻撃で対戦相手を場外に追いやった。

 

調子づき、出来もしない「上段後ろ回し蹴り」まで繰り出す始末だ。

 

 

父:「え!?つ、強!!」。

 

 

開始から1分30秒。

 

かくして、あっという間に組手は終了した。

 

当初の心配はどこへやら、気の毒なのはむしろ対戦相手の方だ。

 

ヘッドガードで表情までは見えないが、相手の男の子はきっと泣いているに違いない。

 

ほかにも、チラホラ涙を流す子どもの姿があった。

 

皆、この日のために努力を重ねてきたのだ。

 

 

見事に初勝利を飾った弟子が、師のもとに駆け寄ってきた。

 

極度の緊張から解放されたものの、「興奮まだ冷めやらぬ様子」といったところか。

 

高ぶる気持ちのまま、我が弟子はこう言い放った。

 

 

相手が弱すぎたよ

 

 

その心無い言葉に、師であり父である僕は顔面蒼白に。

 

抱擁を求める息子の手を払いのけ、思わず怒鳴りつけてしまった。

 

娘の実力は?

お父さんにきつく叱られ、べそをかく愛弟子。

 

折角の初勝利を「最悪の失言」で濁す形になったが、内容自体は悪くなかった。

 

この調子だと、娘の実力にはもっと期待できる。

 

追い込みの1か月、実のところ、著しい成長をみせたのは娘の方だ

 

次回に続く。

 

親子空手の話題はしばらく連載形式で続けます。

 

どうか最後までお付き合いくださいませ。